人気ブログランキング | 話題のタグを見る

テンポラリー通信

kakiten.exblog.jp
ブログトップ
2011年 05月 06日

窓撃つ光ー燃える春楡(5)

燦々と五月晴れの午後の光が射し込んでいた。
午後5時を過ぎてもなお西陽は高く、会場には長い光の輪が広がっている。
昨夕の今村しずか×有山睦ライブ。
普段寡黙な有山さんのいつになく多弁な語りが、訥々(とつとつ)と流れる。
やがて有山さんのドラムが低く叩かれ、今村さんの声が広がった。
今村さんの声にはいつの間にか、芯のようなものができて、迷いがない。
あっ、何かが変わったなあと思った。
その声の芯にあるものが、最後に歌った新曲「この世界に生まれて」で
明らかになった気がする。
今度の大震災で心が痛み、音楽家としてなにができるかと考え、
ふと思い浮かんだ亡くなったお姉さんの言葉。
それがこの曲には散りばめられている。
お姉さんの遺作集「私もその自然の中の一部なんだ」のタイトルは、
そのまま歌の中にも取り入れられている。
死んだ姉を思う気持と今度の大震災の被害者を思う気持が響きあって、
唄声が出ていた。
難病だったお姉さんと大変な困難の中の被災者。
ともに人知を超えた困難と闘う人間への深い共感が、そこに篭められていた。
人間への深い思いに収斂されるこの曲は、その中心を姉の死に置く事で、
深い波紋を生んでいた。
大きな状況から大震災を見る心の位置から、身近な愛する姉を思う気持の
触れる位置に普遍して言葉と旋律を乗せて歌った時、何か動き変わったの
である。
遠い人の事ではない。
心痛んだその痛みには、身近な愛が普遍するようにある。
この時渦の中心は深くなり、深い分だけ大きな波紋が生まれた。

今回のふたりのライブには、そうした渦の中心がいくつかあったと思う。
今村さんのスキャットと有山さんのドラムだけで構成された「撓む指は羽根」
の演奏もそうだった。
死んだMの遺作曲を生前会った事の無いふたりが今回初めて演奏した。
遠い世界の死者と交信するかのようなこの演奏は、残された遺作を通して
ひとりの人間を思う気持と同時に、音楽を愛する心が生んだ渦である。
Mはふたりにとって未知の人であって、純粋にふたりはMの曲で繋がっている。
その音への共感が渦の中心にあり、この演奏の波紋を生んでいる。
野上裕之の「鳥」が揺れる窓辺には、Mの遺作集と今村さんのお姉さんの
遺作集が並んで置かれ、ともに肩を寄せ合い聞いているように見えた。

もうひとつの渦の中心は、場という事と思える。
私達は円山北町時代には知り合い、今新たなテンポラリースペースで
ふたりはこうして初めて演奏の場を設けた。
ここで有山さんはMの曲を知り、また今村さんはここで森本めぐみさんの作品
に触発され、新たな曲を創った。
そうした場を通して歌が生まれ、演奏が生まれた。
従って、場その事自体がひとつ、この日のふたりの演奏の渦の中心にあった
事である。

これらいくつかの心の渦が、今回のふたりの演奏の中心をなしていた。
きっとそれらが寡黙な有山さんを多弁にもし、今村さんの声に芯を与えた
とも思えるのだ。
西陽が翳り夕闇の青が濃くなる会場には、ふたりの演奏と声が深い色彩を
滲ませて響き、夜の灯りは遅くまで消える事がなかった。

*及川恒平ライブ「まだあたたかい悲しみー其のⅢ」-5月8日(日)
 午後4時~予約2500円当日3000円。
*阿部守展ー5月20日(金)-6月5日(日)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2011-05-06 16:24 | Comments(2)
Commented by 有山 at 2011-05-06 23:41 x
この度のライブ、声をかけていただき本当にありとうございました。またリハと本番を聞いていただき、このような言葉もいただいて非常に嬉しいです。
テンポラリー通信のライブ告知が、今村しずか・有山睦→今村しずか+有山睦→今村しずか×有山睦へ記号が変化していましたので、そこに中森さんのメッセージを感じておりました。
今村さんの声が伸びやかにテンポラリーに響いたので、聴きに来てくれた皆さんに届く演奏になったのではないかな、と思っております。
今回の時期にライブができてよかったと思っております。ありがとうございました。
これからもよろしくお願いいたします。
Commented by テンポラリー at 2011-05-07 16:13 x
有山さま>記号の変化、そうですね、気が付きませんでした。
でも自然とそうなったのです。
これを機に(×)をより一層深めて、いい音を創って下さい。
それとともに、この場も一緒に深化する事と思います。
よろしくお願い致します。


<< ふたつの声ー燃える春楡(6)      五月晴れー燃える春楡(4) >>