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テンポラリー通信

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2011年 04月 15日

ハルニレの一葉ー風の土(12)

写真家のアキタヒデキさんが夕方ふらりと来た。
昨年初め石狩湾で座礁したヴェトナム船を撮影した人である。
この時の写真は今「記憶と現在展ーそのⅢ」に展示されている。
ヴェトナムの右目白眼の少女の写真とともに、この写真は2階吹き抜け北側
回廊に飾られ、窓から射す陽光に映えている。
この作品を含めた展示全体を是非彼にも見て欲しかった。
三人の写真家メタ佐藤、竹本英樹、アキタヒデキによる「三角展」は、昨年
第一回展示をテンポラリースペースで開き、写真誌「三角」も同時に発刊して
今年は2回目の三角展を、某カフエ画廊で開き先週終ったばかりであった。
このヴェトナム座礁船は一回目の展示に出品されたものである。
この作品は縁あってここの収蔵品となっている。
アキタさんは今月仕事を止め、再びヴェトナムへの旅を企画していたようだ。
しかし今回の東日本大震災及び原発事故進行中の現在、今海外へ行く
気持にはなれないと、少し憔悴した感じで話をした。
そして今回発表した写真を綴じたファイルを開き、新しい額を解いて3枚の写真
を選んで額装し、ここに置いて欲しいと言った。
その3枚は、冬の石狩河口とヴェトナム座礁船とハルニレの3葉だった。
ヴェトナム座礁船は今展示中のものと同じ写真だったが、より小さいサイズで、
よりクリアーな写真である。
私が惹かれたのは、ハルニレの大木を燃えるように仕上げた一葉である。
技術的に細かな事は分からないが、このような真っ赤な激しいハルニレは
見た事がない。勿論現実のものではない。
油彩の激しい筆先のように色彩が樹の燃えるような気を顕している。
光の多重露光なのだろうか、幹の周りに炎がある。
これをここに置きたいと言ってくれた彼の心が、他の石狩のニ葉とともに
すっと私に響いてきた。
激しく純粋にしてナーバスな人である。
後はもうあまり言葉が要らなかった。
従って久し振りに会って、飲もうかという言葉も力が入らず、この日はこのまま
黙って別れた。

翌朝奥の談話室にこの3葉の作品を、思い思いの場所を選び展示した。
作品の新しい綿毛がまた飛んできて、ここに風の土壌となつて根付いた気
がする。
今は網走の漁師をしている画家佐々木恒雄、青森から来た中嶋幸治、そして
アキタヒデキと三人で歩いた石狩。
そんな記憶も含めて、今燃えるハルニレの一葉が我々の記憶の土壌を耕し、
その風土に加わったのだ。
この事を記してアキタヒデキに感謝する。

*「記憶と現在ーそのⅢ」展ー4月12日(火)-5月1日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め鳥西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2011-04-15 13:08 | Comments(0)


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