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テンポラリー通信

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2010年 09月 27日

五臓六腑に沁みわたるー谷口顕一郎展(9)

昨夜の6人による演奏は、期待に違わず素晴らしい演奏だった。
まずベルリンで谷口顕・彩さんが愛唱していた中島みゆきの「糸」、
ムラギシの遺作「撓む指は羽根」の二曲が入る構成だけでもう、
涙腺が緩む段取りはあったのかもしれない。
しかし、最初の曲目演奏からその予兆があった。
第一部最初の曲は、秋吉敏子の「Long yellow road」。
第一部は谷口作品を象徴する色、黄色がテーマである。
それと同時にふたりがサハリンを経由して、トナカイの村とシベリア鉄道
を経て欧州へ渡った道程をも象徴している。
半年かけてドイツに渡ったふたりの道行きを思い、この曲を選んだと聞いた。
その他はY・M・Oほか黄色に因んだ曲が続く。
2部は古館賢治・今村しずかさん交互のヂュオでベースとドラムも加わる。
古館さんは前のスペース以来4年ぶり、ここは初めての演奏でその技術の
深化には驚くべきものがある。
オリジナル曲「船出」に、沖縄から来て最後の札幌の夜を過ごすさとまんくん
の目が赤く潤んでいた。
さらに2部の最後に今村静香さんが唄った中島みゆきの「糸」では、もう
聞いていた谷口さんが声なく号泣する。
後で聞くと、さとまんくんも泣き出していたようだ。
それぞれの恋の思いが堪らず湧き溢れた瞬間である。
3部に入り、ムラギシ曲「撓む指は羽根」を6人がフルに歌い上げるように
ジャズ演奏をした時、私もまた不覚にも目頭が熱くなるのを抑える事が
できなかった。
演奏前、藤谷康晴さんが会場に来た。
谷口展を見る為であるが、彼はムラギシ最後の個展の直前にここで
展示した作家でもある。
ふたりが展示を入れ替わる時、互いに片手を上げ、”バトンタッチ、ハイタッチ”
と声を上げ手を合わせた事が、私には忘れられない記憶としてある。
そこからムラギシ最後の個展が始り、個展の2週間後に遭難死するのである。
その死の直前に遭難した高知で出会っていたのが、沖縄のさとまんくんである。
そのふたりが偶然とはいえ、この日会場にいた。
さらに私に大学入学直前のムラギシを紹介したのは谷口さんである。
その谷口展会場でムラギシの遺作が初めて生演奏される日、
死の前一番身近にいたふたりが来ていた。
そんな偶然も含めて、この曲の演奏はきらきらと光に満ちて深い音で
会場を満たしていたのだ。
ムラギシの遺稿集を出版したかりん舎の坪井さんが、演奏会終了後
演奏者全員に遺稿集を寄贈すると言い残し帰る。
ムラギシ死後未知の青年の為に原稿を集め、優れて後世に残る本を
編集出版した坪井さん、高橋さんの目も赤く潤んでこの日の演奏の
素晴らしさを伝えていた。
またこうした集りに初めて来た宇田川洋さんは、今夜は興奮して
眠れそうにないとはじけるような笑顔を見せていた。
普段寡黙で、学究肌の宇田川さんが初めて見せた表情である。
音もまた五臓六腑に沁み入るのだ。
五感の一感が音声を捉えるにしても、その優れた響きは他の四感に
も及び、第六感をも震わす。
銘酒の一滴のような音だった。
6人の優れた演奏者全員にあらためて敬意と感謝を捧げたい。
そして会場の狭さにもかかわらず、最後まで耳を傾け盛り上げてくれた
聞き手の皆さんにも深く感謝したい。

*谷口顕一郎展「凹みスタデイ#19」-9月21日(火)-10月3日(日)
 am11時ーpm7時

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2010-09-27 18:16 | Comments(0)


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