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テンポラリー通信

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2010年 06月 16日

巨樹からの手紙ー木霊(こだま)する(13)

清華亭脇に聳え立つ一本の巨樹が教えてくれた事。
それは深く垂直に生きている事だ。
高さの分だけ深く根を下ろし立つ。
そして天地の世界に広がる。
すぐ傍を疾走するかもしれない新幹線や車道の直線的な横の世界に
対し、樹には縦に垂直に世界に触れる軸心がある。
それは、物流の横軸ーグローバリズムと対極にあるものである。
木々の垂直軸が連なって森となり、緩やかな横軸が生まれる。
それが川の流れであり、泉であり、風だ。
樹の縦軸を信頼して、小鳥も動物もそこに巣篭もる。
南と北の垂直軸から磁場が生まれ、そこから東西が広がるように
真の横軸の開き方を樹は教えてくれる。
東奔西走の現代は、東西の拡張ばかりを優先して、
深め高める命の垂直軸を見失っている。
そうした都市化のど真ん中に、あの一本の巨樹は立っていた。
都市化が推し進める垂直軸とは、高層化という断絶の構造である。
より効率的な土地活用、より効率的な収納を目的に、高さはその為に
増幅・拡張される。
一本の樹が保つ高さは、生命の有機的な広がりとして森ともなるが、
高層ビル群は、そこだけ自己完結する収納の箱でしかない。
小さな幾つもの箱を集積させ、パックする構造なのだ。
個室は個々に閉じ閉塞する。
それが住居の集積であり、事務所の集積であり、ショップの集積である。
さらにその集積体は、一個の建造物としてまた閉じるものである。
林立する高層ビル群とは、そうした縦の閉じた集積体である。
そうした都市風景を私たちは、かって摩天楼と呼んだのだ。
豊平川の対岸、中の島側から札幌を見るとその風景が現実のもの
である事に気付く。
あるいは近郊の山の頂上から見下ろすと、石の塊のような都市風景が
広がっている事に気付く。
樹は集積して有機的な森を創るが、ビルは集積して無機質なコンクリート
の荒野を造る。
この荒野は時間の保水力をなくし、固有の蓄積する時間はすぐに乾いてゆく。
物流のパック化と流通化の集積がそれに代わり、拡大し増幅するものが支配
する。その喪失し続ける時の保水力を、一本の樹という生命体は警告として
示唆してくれる。
同じひとつの生命体として、世界への大切で確かな触れ方を樹は示唆する。
人間の生きてきた歴史が、あたかも一本の樹の年輪のように内に重層する
現在の皮膚層としてあり、現在・過去の新旧淘汰にはない事を示唆する
のだ。率直に、シンプルに、樹の立ち姿はその事実を語っている。

*西牧浩一版画展「光景が移り変わるように」-6月17日(木)-20日(日)
 am11時ーpm7時。
*写真家集団三角展「パラダイムシフト」-6月22日(火)-7月4日(日)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2010-06-16 14:24 | Comments(0)


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