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テンポラリー通信

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2010年 04月 13日

春嵐ー早春賦(7)

台風並みの強風が吹く。
春一番というより寒の再戻り。
自転車置き場の自転車が軒並み倒れている。
自分の自転車だけ、とりあえず起して倒れないように陰に置く。
今日は徒歩と地下鉄で画廊に向かう。
帽子の紐を顎の下に強く結ぶ。
今日は傘だと飛ばされてしまう。
藤谷康晴展初日。朝一番にM夫人が来る。
嵐の日に相応しい。
風邪をひいたとかいう事で大きなマスクをしている。
ざっと会場中を歩き回り、撮影し、文字通り嵐のように見て帰る。
ここでの最初の個展以来、藤谷さんの展示はほぼ凡て見ている。
楽しみにして来たという。
正直な性格の人である。興味のない時は全然来ない。

昨日の休廊日は、自転車の泥除けが壊れたので器具を見に
ホームセンターに出かけたきり。すぐ帰ってドボーン。
頭がちくちくする。くも膜下出血とか、嫌な考えが頭を過ぎる。
なにか疲れている。
K氏からメールが届いていた。
昆・テンポラリーという命名の提案。
昆虫とテンポラリーの合成語。
今夜その昆虫博士も来廊とのこと。
藤谷康晴さんの微細な都市の内臓画は、どこか共通するものがある
かも知れない。
都市を有機的な描線で描く細密画と昆虫の細密な有機的世界。
その視線の突き破る先に、<con=ともに>の視線があるかも知れない。

日本の昆虫学の始まりは札幌と聞いた。
それだけ近代において自然が豊かであったという事でもある。
その自然と人間社会の回路が今、危機に瀕している。
それが現代である。
今流行のエコとか対処療法だけではすまない、
本質的問題を見詰めなければならない。
近代を徹底的に問い直す事だ。
昆虫もまたその証人である。
昆・テンポラリー。いいなあと思う。
私は閉じた郷土愛で札幌を見ている訳ではない。
近代と現代の凝縮した都市として、札幌を見ている。
その前は、先人アイヌの世界が広がる自然・縄文の世界。
純粋近代を都市として見直し、インフラ・グローバルな現代を問い返す。
今また新幹線拡張で、道庁赤煉瓦庁舎前庭ー植物園ー伊藤邸ー
清華邸ー北大構内と繋がる貴重な近代・自然の風景の連鎖が、
喪われるかも知れないのだ。
泉池(メム)の残る風景。

 古い札幌の姿を、幸いにも残して来た最後の泉池(メム)であって、
 札幌の街にとっては、古建造物と同じような、貴重な文化財である。
                     
                     (山田秀三「都心にあった三つの泉池」)

1965年に出版された「札幌のアイヌ語地名を尋ねて」で、もうすでに
山田秀三は、<・・その文化財が、我々の目の前で、無残にも廃滅し
かかっている。>と警告している。
先人が原始林をまるごと保存し植物園とした、世界に稀なる植生と泉池。
そこに続く近代建築物。
これらの近代遺産がまたまた新幹線の線路拡幅で破壊の道を歩む可能性
が出ている。
何百メートルもの地下通路を建設し、アート広場とかいう愚の骨頂のような
文化行政よりも、先人の遺した貴重な建築物と自然の交差する風景こそ
遺すべきである。
そこには美しい洋館と泉池と巨木と昆虫がともに生息しているのだ。
これが札幌を札幌足らしめる正統な近代である。
そこを破壊する現代インフラの嵐は、今日の嵐とは根本的に異なるものだ。
昆虫たちへの視座と都市の無機質な風景を切開する視座とは、
そうした現実を対極的に見詰める視点においてラデイカルに
共通するものである。

*藤谷康晴展「ANALOG FLIGHT SAPPORO→」
 4月13日(火)-25日(日)am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503


                 

by kakiten | 2010-04-13 12:54 | Comments(0)


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