キーンと青空。
石油ストーブの上の水が凍っている。
寒気が次第に身体を札幌に戻して来た。
始っている森本めぐみ展に触れぬまま、目黒の坂が続いていた。
年を跨いだ会期。まだまだこれからである。
床板の節穴や、梁の隅にも細かく細工がある。
糸が垂れ、穴を塞ぐ。
吹き抜けを含む会場全体が、水母の触手のように揺れている。
会場左手の壁に、この家全体が宙に浮かんでいる素描がある。
そこだけ赤い屋根が印象的だが、家自体が空中に浮いて、触手の糸が
繊毛のように地下へと伸びている。
これが象徴的だ。
画廊の建物自体が、ヤドカリの棲み家。
あの強い印象を与える大きな目をした少女の瞳の中。
その瞳の中の粘膜やら、目脂やら、涙腺やらが溢れて、この空間全部を
包み込む。そんな気がしているのだ。
2階吹き抜け廊下床板の大きめの節穴には、細長い袋が下まで
ぶら下がっている。
この穴から、胞子の小さな塊を落下させる仕掛けだ。
半透明の袋の中に、その種子のような塊が溜まっていく。
大きな瞳の光彩の中心の、内側の奥の奥にその種子は達して、その時
内側の世界は表に逆転して、ぺろりとひっくり返る。
作家によると、年末にはもう一枚の大きな絵が完成し運び込む予定という。
この作品が展示されてきっとこの空間は、ある完結性を保つに違いない。
種子がきっと産卵するような予感がする。
森本さんのブログに5っの部屋という言葉が出ていた。
恵庭の実家、大学の寮、アトリエ、彼氏の部屋、そして5番目がきっと
個展会場のこの家なのだろうと推測する。
5本の指、5っの部屋。
ここが薬指か、中指かは分からないけれど、5本の指が揃って、あとは
ぐっと掴む、握るだけ。それが5ッ目の部屋の役割である。
年末から年明けにかけて、水母の軟体はきっと貝のように固く孕んで
新しい夢を産むに違いない。
会場全体、否家全体を、柔らかな感性が包む新鮮で有機的世界だ。
*森本めぐみ展「くものお」-12月15日(火)-1月13日(水)
am11時ーpm7時:12月31日ー1月4日まで正月休。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503