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テンポラリー通信

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2009年 10月 26日

Relation Field 山下邸ー’Round midnight(22)

帯広のUさんたちと旭ヶ丘・山下邸再々訪。
初めて訪ねたUさんたちの目線がこちらに反射してくる。
前回とは私の感じ方がまた違う。
今回唐牛さんの作品がよく見える。
玄関正面の大きな座敷中央にある作品。
周りに小石が敷き詰められ一方が盛り上がって、小さな頭部が上を向いている。
長い舌が口からゲロのように出ている作品。
午後の陽射しがあたり、不思議な美しさと存在感をもって見える。
畳に座り見ているうちに、これは生誕の瞬間なのだと分る。
母親の胎内、羊水のなかの水中呼吸から、外へ出て肺呼吸に変わる。
”おぎゃ~!”の瞬間のように見える。
呼気に始まり吸気に終る人の人生の、正しく最初の呼気の瞬間だ。
聞くと敷かれた小石は海岸のものという。
海から陸への移動という生物の進化の過程でもあるのか。
作家自身の家族への個人的歴史とこの家が保つ歴史とが、Reーlation
(関係)という再生<Re>を重ねている。
家の保つ時間軸と作家の生きてきた時間軸がこの場で交叉している。
そのクロスするふたつの時間軸が、場に再生して現在を創っているのだ。
この空間が優れているのは、一方の歴史に偏せず、クロスして
今を活性化している事だ。
従ってそこでは、一方の歴史に膝小僧を抱え込むように閉じる事がない。
繰り返し唐牛幸史の作品に顕われる胎児の頭部は、
この作品空間が<再生>をテーマにしているからである。
この周りに座っていると、ぼんやりと時間が重なり過ぎてゆく。
都市の日常の区切られた早い速度の時間は遠いものとなる。
ただただ豊かな水の流れのように、周囲のすべてに触れながら時が過ぎる。
幾人かの見学者が去り、この作品の周囲にふたりの女性が残る。
話していると、その内のひとりは、なんと’83年夏の川俣正のテトラハウスプロ
ジェクトに参加した当時の学生Tさんだった。

唐牛さんの小さなオブジェに鼠の形のした香合がある。
冬眠鼠(やまね)という高地に住む冬眠する鼠だという。
凍ったまま仮死状態になり、氷が溶けると同時に蘇生するという
まだ謎の多い動物らしい。
川俣体験を語る内、Tさんの顔は遠い時間を遡り活き活きとしてきた。
ナカモリカキテンも思い出したのだ。
思わず私は彼女に仇名をつけた、<ヤマネさん>である。

数時間を山下邸で過ごし、この日札幌に泊まるUさんたちと居酒屋に行く。
さらに熱く、今回の感想を自分の作品と重ねて語るUさんがいた。
そしていつのまにかTさんには、<ヤマネさん>という呼び名が定着していた。
山下邸、唐牛幸史、ヤマネさん。
この3つが保つ時間には、横軸に流れない垂直な時間軸が、
今という時間に交叉して漲っていたのだ。
唐牛さん、この一日の時間こそ<Relation Field>。
今回のあなたの個展タイトルそのものであったと思います。

*斎藤紗貴子展「明日への自由」-10月27日(火)ー11月1日(日)
 am11時ーpm7時
*唐牛幸史展「Relation Field」-10月31日まで。
 :札幌市中央区旭ヶ丘3丁目4-5・旧山下邸。tel011-563-3780

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目108斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-10-26 12:47 | Comments(0)


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