2009年 05月 13日
風のように漂泊の大工が去った後、それぞれに関わった人の物語が始まる。 それぞれの中で発熱した日常と非日常の挾間のその後の物語である。 まずテトラハウスの持ち主、E氏は当初の貸家にする計画を変え、自らその家に 住い、その後間もなく改装し「竹林精舎」というカフエを兼ねたフリースペースにす る。川俣正の招いた40日間の祝祭を、生業の方に引き寄せたのである。 生活と非生活的なものの摩擦熱、スパークした何かを、生活の側の軸に据える 事で、生活の手段としたともいえる。その時、日常と非日常の挾間のひりひりした 火傷のようなものは鈍化され、次第に凝固剤のようにカサブタ化していった。 倉本龍彦氏の設計で生まれ変わったこの建物は、斬新なデザイン性に満ち、 この界隈のある時期の花ともいえるものだった。 狭い三角の土地を考慮して出来た、半地下2階建ての緑色の建物はそれ自体が 話題性をもっていた。 それから約8年、このフリースペースという名の建物は、バブルとともに消える。 E氏は土地バブルに乗り、この土地を売却し別の仕事を始め、一時は某高級住宅 地に豪邸を構えていたが、その後事業に失敗し行方は知れない。 ある非生活的行為が生活の側にその垂鉛を下ろし、そのふたつの相反するものが 激しくスパークした時、火傷のあとのように、カサブタの時間が来る。 凝固する時間である。それは生活の側面にも、非生活的側面にも訪れるものであ る。対峙し発熱する磁場は、より原則的なより本質的なところで、火種、熾き火の ようにあって、一方に取り込まれるものではない。 美術的美術や生活的生活の一方に組み込まれた時、その磁場は凝固しカサブタ 化するのだ。 テトラハウスと名付けられた一軒の祝祭の家は、フリースペースと名を変え生業の 場としてその摩擦熱を常態化せんとした商才に転じて、生活の手段の側に組み込 まれ、凝固していったからである。 その事は、非生活的側面にいる美術志向の人たちにも同じ事がいえる。 生活と美術という相反する位相を保つものが、日常・非日常の挾間で激しく摩擦し 一方に都合良く取り込まれる時、その対極が保つたエネルギー磁場は枯渇する からだ。美術があるいは美術行為が、町という生活の場を変え得るという錯覚が 生まれる。本来本質として火種足り得るものが、手段のようになる凝固剤化、かさ ぶた化がそれだ。 人間がその生き方の根のところで問われるべき問題の本質が、手段として固定 化するのだ。 工事中、進行中という川俣正の表現理念は、そこを抑えて語られる。 日常と非日常の挾間にふっと開いた祝祭は、村の祭りのようにあって、フエステ イバルとして常態化は出来ないものである。 <そしてたぶん、村の祭りの楽しさは、村人にしかわからない。>(川俣正) <そして祭りは終った。・・・このプロジェクトの成果は、これに関った者達の今後 にかかっている。そして、それもまた川俣正の作品の一つとなるのかもしれない のだ。>(まさき はじめ) <祭り>という非日常と<村>という日常は、生活者の次元で激しく交錯したのだ 。その摩擦熱を如何に熾き火として保ち、持続し続け得るかは、今もなお自分自身 の問題としても重く心にあり、簡単に総括は出来ないものだ。 *川俣正アーカイブ「テトラハウス326」記録展ー5月12日(火)-24日(日) am11時ーpm7時・月曜定休・休廊 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2009-05-13 13:16
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