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テンポラリー通信

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2009年 05月 03日

霞む空ー夢の中径(2)

空も空気も霞んで曇天。
円山界隈は車も人も多い。
花見と新しく出来たショッピングセンターへと行列が続く。
人を避けブレーキをかけながら、交差点。
旧5号線を渡ると、卸売市場ー競馬場横はすいすいと快調に走る。
界川、琴似川合流地点あたりの柳の大木も、手前の桜の木とともに色づいて
いる。川は暗渠で見えないのだが、舗道のアスファルトが波打っている。
見えない川の地層が、表面にズレとして顕在化している気がする。
歩いていたら見えないものも、自転車の車輪は捉える。
今日で熊谷榧(カヤ)展も終る。
山好きの方々がぽつりぽつりと見に来た。
昨年暮山で滑落死した青木正次先生の奥様は、その時ご一緒だったショックから
か何度電話しても出られず、今だ連絡が取れない。
榧(カヤ)さんの気持ちで、お二人を描いた大作は、遺族に寄贈される事になって
いる。今ふたりを描かれた絵を見る余裕はないかもしれないので、そっとしておこ
うと青木先生の山の友人たちが言う。
その他の絵も、今回すべて描かれた人たちに、熊谷榧さんの好意でそれぞれに
寄贈ということである。
北海道の山と人への榧さんの気持ちである。
深く感謝して今回の展示を終えたい。
お父上の熊谷守一を想起させる強い輪郭の描線は、冬山の風景と人を見事に
捉えて飽きさせない。
アーテイストレジデンスとかいう制度で、公的資金を使った美術事業もあるが、
北海道の山をここまできっちりと何年もかけ、人と自然と交流し描いた作家を、
もう少し感謝と敬意をもって見てもらいたいと思う。
公的資金なぞ一銭も使わず、個人対個人の友情と地域との内に培われた時間
の集積の作品であるのだから。
美術に形容詞として近代とか現代とかくっつけ分類してすむ問題ではない。
レジデンス(滞在型)制作の基本的問題である。
来た人に、あるいは行った人に、本当に個対個の深まりがその地域で形として
ずーつと残るような仕事が成されているのかを問うのである。
リトアニアの作家がレジデンス事業で札幌に滞在し、その後何年かして東京で再
会したある人が、札幌にも寄らないの?と聞いたら、もうあそこには行く気はありま
せんと応えたという。文化庁の助成金を使い、宿泊と展示場を与えれば即レジデ
ンスという安直な方向からは何も生まれないのだ。
MとMEのふたりの女性作家は、猛烈に名刺交換ばかりのレジデンス体制を批判
していた。帰国する二日前冬の滝を案内した後の居酒屋でのことである。
女ふたり郊外を数時間歩いて汗をかいた後の気楽さもあったのだろう、英語でポン
ポンと話していた。3ヵ月近くも滞在した最後の話である。本音だ。
一緒に歩いたその日が一番素晴らしい一日だったと、その後日本を去る日の日付
で葉書が届いたのだ。そして、必らずまた来ると最後に書かれていた。
招く方が、自ら生きている場を知らなさ過ぎる思い上がりがある。
グローバル化(同質化)に対峙する、個として地域としてのパテイキュラーを提示
せずして、なにがレジデンスなのか。
もっと都市の箱から出て、さっぽろの、石狩の身体に触れよと言いたい。
熊谷榧さんの作品は、熱くその事を語っていると私は思う。

*熊谷榧展「北の山と人」-5月3日(日)まで。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-05-03 12:56 | Comments(0)


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