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テンポラリー通信

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2009年 04月 12日

イカロスの翼ー歩行の縦軸(11)

<やはり美術は、青黒い沼地に沈んで他の何かに隷属しているより、青空を疾駆
 する天馬のような世界であってほしいと願う。>(「美術ノート」№5編集室)
と、佐佐木方斎は1985年5月後記に記している。
’70年安保闘争を経て’80年代後半にかけて、世の中はバブルの時代にある。
熱い世界への視点は喪われ、豊かな経済成長が地上げや億万長者を生み、今
日のエコといわれる概念など考えてもいない時代でもある。
物は大量に作られ、どんどん消費され、その猛烈な成長がいつまでも続くかのよ
うに回転していた時代である。しかしその一方で、個は孤立し満腹飢餓の精神の
時代でもあったと思う。象徴的な事は、海鳥がプラスチックの粒をなにかの卵と思
い飲み込んで消化出来ず、満腹のまま餓死するという報道があった事だ。
石油化学製品が、その利便性からあらゆる分野で加工され使われる。生活の全
般にシック症候群が現れ、アトピー、新建材の弊害、ゴミ処理場と繁栄する都市の
根底では今日的弊害状況の基礎が進行しつつあったのだ。
勿論その状況の根は、’80年代にすべてがある訳ではなく水俣病、光化学スモッ
グと時代を遡り一連の連続性のうちにある。
しかし空前のバブル景気がその事を増幅させたことも紛れもない事実であると思う
。バブルの凋落とともに、加熱した土地マネーゲームは終焉するが、自然環境の
悪化がそこで停止する訳ではない。自然というのは即効性にその性質はなく、じわ
りと時間をかけて表に顕われるものだからだ。
’90年代以降今日に至り、エコだ、消エネだと声高に語る事があたかも主流、流行
のような状況だが、その経緯を抜きに今はない。
数学的分析に基づく純粋抽象三部作「格子群」「自由群」「余剰群」の’80年代を経
て、佐佐木方斎が、利便性の象徴ともい得る新建材の廃棄物、シーリングボード(
天井床材)を素材に’90年代の後半に製作した作品は、もうひとつの格子群と思え
るものだ。’80年代イカロスのように天空へ飛翔した理念の翼は、墜落してゴミ捨て
場の折れた廃棄物のようにある。
即効性を至上とする規格品の建材。新品でのみ通用し、旧品は即廃棄され埋め立
てて処理される。その石膏ボード系の廃棄物を使い、再生しようとした時、その方形
の吸音構造の形は、’90年代の格子群に見えるのだ。
青空を疾駆する天馬の翼は、あたかもイカロスの翼の如く墜落し、地に打ち捨てら
れている。その現実から如何に再生し得るか。
今回初めて公開された「メタレリーフ」展は、その困難を如何に同時代として感受
し得るかも問われるものと思う。

*佐佐木方斎展「メタレリーフ」-4月7日(火)-17日(日)am11時ーpm7時
 月曜定休・休廊

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-04-12 14:49 | Comments(0)


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