人気ブログランキング | 話題のタグを見る

テンポラリー通信

kakiten.exblog.jp
ブログトップ
2009年 03月 26日

見るー弥生・三月(22)

一晩眠って、スプリングブルーもだいぶ去る。
吉増剛造シネ「キセキ」を見る。詩人の映像である。
touch with eyeとはこういう映像をいうのではないか。
昨年の道立文学館の個展では、本人の語りとともに大きな画面で見た。
小さな画面で見るので迫力は違うが、見落とした作品もあり、
通しで全編見る良さもある。
第一作の「まいまいず井戸」は、かって福生のお宅に招待された時吉増さんに
案内して頂いた場処である。「石狩シーツ」完成のお礼だったろうか。
まいまいず井戸とは、螺旋状に地中に掘られた古代の井戸の遺跡である。
横田基地のフェンス脇の道を車で走りながら、この下にも見えない御獄(うたき)が
あると詩人は呟く。60年かけて想像力の世界で見えてきたと語る。
そしてまいまいず井戸を下りていくシーンになる。
この異世界への道程がこの映像の主題である。
詩人の生まれた奥多摩の大地を塞ぐ基地。
その下へと詩人の目は触っていくのだ。
今回初めて見た映像の中で印象深かったのは、「プール平」という一編である。
何も入っていない打ち捨てられたプールの廃墟を、詩人の目が徘徊する。
青い塗装の剥げた水のないプールの壁、底。そして亀裂。
私はその青に沖縄で見た豊平ヨシオさんの作品を思い出していた。
壁面一面に飾られた百余点の亀裂の入った青。
画家は空に亀裂を入れたという。
見るのではなく、ただただ眺めているのです。青い壁を前にしてそう語っていたのだ
。プール平というバス停もある大きなプールの廃墟。
その底で詩人はひたすら目の指先で触るように、映写する。
剥げたペンキの青が、底に壁に揺らいで映る。
沖縄の輝く青の空と海の色に、深い亀裂を刻んだ美術家の目と、この打ち捨てら
れたプールの廃墟とは何の関りも無いのだが、ふたりの目線は亀裂を追い、そこ
に深く開く視軸を保っている。
この青はなんなのか。昨日までの私のブルーは覚醒して、背筋を伸ばし自問する。
「鏡花フイルム」でも手提げ袋の青が、深い印象をもたらしていた。
「エッフェル塔(黄昏)」でも夕暮れの青い空気が印象的である。
吉増剛造は、目の指で触り、目の指で舞踏している。
そしてその指先は風景の奥の風景に触れる。
touch with eye。
青は藍になり、哀になり、時空を超えた愛のように今感じられる。
豊平ヨシオの沖縄報告を、吉増さんにもせねばならぬ。
あの南の島の、青い函の底に湛えられていた見えない哀の亀裂を。

*小林由佳展「ソノサキニシルコト。」-27日(金)まで。am11時ーpm7時
*及川恒平フォークライブ「はざまの街にて」-午後3時~
 入場料3000円・予約2500円

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-03-26 12:36 | Comments(0)


<< 歩くー弥生・三月(23)      漂流するー弥生・三月(21) >>