2009年 02月 26日
沖縄二日目。朝豊平さんが車で迎えに来る。まず彼のアトリエに向かう。 どんどん坂を登り島の高台にあるその場所へ着く。プレハブのちょっとした工場の ような建物で、中に入ると高さ3mほどの壁に黒い板に様々な青の作品が一面に 並べられている。一点が縦1m、横50cmほどである。これが、100点もあるだろ うか。3点を縦にして横に壁30列以上である。青一色の様々な色のバリエーシヨ ンが美しい。天井の半透明な屋根からは日の光が入り、青の色彩が光り、翳る。 縦長の作品の真ん中に亀裂が縦に入っている。その亀裂は一様ではなく青一色 の内側から捲れている。 言葉はなかった。ただただ空を、海を見るように眺めていた。 哀しみ、ふっとそんな言葉が浮かんでは消えた。 昨年7月豊平さんから電話を頂いた時、語っていた言葉を思い出した。 <作品が沢山あるんですよ。見るのではなく、眺めているのです。。> そうだ、見るのではない。ただただ眺めるのだ。 海や空を見るとき、人は見るのではなく、ただただ眺めるのだ。 18年ぶりに会った豊平さんの純粋な突き詰めた極点を思った。 以前に見た米軍キャンプのテント地や廃材を使った、のた打ち回るような格闘は 消え、澄んだ哀しみだけが空のように、海のようにある。 この後案内して頂いたアトリエ近くの丘の上から見た青い海。 その色が正にこの青だった。 この島ではいつも海がある。圧倒的に海があるのだ。 そしてその海の色の多彩さは北の石狩にはないものである。 積丹の冷たい青とも違う。浅瀬から広がる海の色。そして空。 もう未知の鮮やかな赤い花が咲いていた。ウグイスがしっかりと鳴いていた。 幾重もの青い層の海・空、木々の緑、花、鳥。ここは夢の国である。 私はある危惧を感じていた。此処にいてはいけない。私が駄目になる。 そんな危惧を感じていた。近くにコンクリートで補強された御獄(うたき)があった。 この島特有の珊瑚礁質の岩が奇岩となってあの世の入口のように口を空けてい る。沖縄の信仰の場である。その案内板に他の御獄の場も記されている。 その中に中森御獄の表示があった。ナカモリとは読まず、ナカムイと読むという。 不思議な廻り合せを思った。 豊平さんのアトリエを後にして午後から御獄廻りをする。 圧巻は世界遺産にも指定されている斎場御獄(せーふあうたき)だった。 巨岩、奇岩の山中に最後遠く久高島を望む場処がある。 ここでも海が主役である。久高島の向こうに日が昇るという。ニライカナイである。 海の青、夜明けの陽光。そして奇岩の御獄(うたき)。 青は沖縄で死の色という。純粋な死の色と純粋な生、太陽の赤。 生と死の純粋に一致する場処。それがこの南の島だ。そう思った。 そして豊平さんの絵を思った。あの作品はその死の純粋な哀しみの色と亀裂で ある。美しい海が圧倒的に存在する処。 そこに珊瑚礁の死骸の山が陸になり多孔質の奇岩が死のようにある。 そのふたつのものが同時に併存する。生と死、美と醜が対立せず、最も美しく 同時にある。 夜山羊の料理をご馳走になった後、豊平さんの自宅に行く。 そこは現代の御獄と思った。夜の庭の鬱蒼たる南の植物。 そして洞のようなご自宅。遅く宿に帰り思ったのだ。 この路地裏の二段ベットの宿泊所もまた、現代の御獄かも知れないと。 都会の片隅のむせ返る湿気の洞窟である。 下の酒場のマスターは札幌出身と言った。札幌の何処と聞いたら、中央区と答え た。中央区の何処と聞いたら、伏見と答えた。 美しいこの島には、その美しさに人が集(たか)るように集る。この界隈の廃屋には 沖縄圏外からの人が多く営業しているという。 美しい風景に集る観光・商業施設。そして現代の御獄(うたき)。 自然との違いはそこに美と醜が美しく併存しないということだ。美に集(たか)る醜し かない事だ。 帰りのモノレールで寝不足の為か切符を無くした。駅の人に事情を話すと優しくいい ですよ、今度ねと言ってくれた。その顔、目は正に沖縄の人特有のものだった。 少し奥目の濃い顔だ。そしてその優しさには、哀しみの深さがあった。 豊平さん、あなたの絵の青い亀裂。それもまた私にはそう感じられたのです。 見る(観光)のではなく、ただ眺めるのです。 沖縄の海・空・御獄(うたき)の奇岩。それらはまさにそのように存在しました。 さっぽろ帰札。零下のモノクロームの世界が広がる。鉛の野上作品が恋しかった。 北の新聞には流氷の固まりの記事が載っている。 沖縄2月夏日続くとTVが伝えている。 今度は沖縄の夏に行こうと思う。いちばん厳しい季節に行かなくてはと思う。 さっぽろの冬を逃げないように、沖縄の夏を避けてはなるまい。 そして豊平さんの作品の完成に立ち会おうと思う。 *野上裕之展「i」-3月1日(日)まで。 *佐々木恒雄展「本日ノ庭」-3月3日(火)-15日(日) :14日(土)は作家結婚式で休廊 *小林由佳展「ソノサキニシルコト」-3月17日(火)-22日(日) テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2009-02-26 14:45
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