壁とは物理的なものだけではなく、心にもある。
そんな心の壁をまたひとり抜けた人がいた。
同じ花屋さんをしているWさんが、来年同年時期個展をしたいと言い出した。
佐藤義光効果である。
ひとりのフロンテイアが風穴を空け、俺もという気持ちに自然となる。
来年2月は、連続して花個展をつづけようかと佐藤さんも言う。
2月花の月。面白いかも知れない。
一年で一番短く厳冬の時、逆転して花の月にする。若手の花屋さんが、仕事を
ちょっと超えて自己表現としての花を試みる。時期的に暇な事もあるだろうが、
遅い春に先駆けその寒さが花の涸れを延命し、保ちを良くするプラスに置き換え
自らの仕事にも意欲をもたらす。そんな実利的な側面もあるが、なによりも生業
を通してファインな部分を日頃の技術を個として問う事がいい。
生活を踏まえて、普段封印している非生活的な心にある壁を越える。
そのちょっとした一歩こそが、アートとファイアートの見えない階梯であるだろう。
最終日前夜Wさんの一言は、ガラス作家高臣大介さんとのコラボから始まった
佐藤さんの個展が波及して、他の花屋さんの個の自立へとその波紋を広げつつ
ある。技術的にも自信を持ち始めた30代の彼らの自立は、技術(アート)から個と
してのファインの虹を架けつつあるのかも知れない。
芸術・文化を特定の領域のものとせず、日々の生業から立ち上げていく志向性そ
のものが文化・芸術の裾野を豊かにするのだと私は思う。
花屋さんが個展をしたから、即芸術家になるという単純なものでは勿論ない。
しかし自らの生業の壁を一歩越えるという事は、端で考えるほど簡単な事でもな
い。実利と非実利の挾間で闘う行為こそが、真に生活というものではないのか。
自らの生きている現場のリアリテイとは、そうした中からこそ生まれ得るのだ。
生活と非生活を二元論的に分離・保存して、その矛盾を真摯に生きようとしない芸
術家気取りの文化人などより、はるかにリアルな生き方と私は思う。
*佐藤義光花個展「別世界」-15日(日)午後5時まで。
*野上裕之彫刻展「i」-2月17日(火)-22日(日)
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